この日の戦いのためだけに…っていうわけでもないけれど、
深司も、橘さんも、こういう日のために頑張ってきたんだと思う。
そして、勿論あの人も・・・・。
応援のチカラ
「おはよう、深司!!」
それは朝。
迷惑だから来るなと言った幼馴染の綺麗な顔が、たちどころに歪んだ。
「うわ…応援来なくてもいいって言ったのに…全くめんどくさいなぁ・・」
「こら深司。せっかくが応援しに来てくれたんだ。そんなふうに言うもんじゃない。」
綺麗な顔は少し形を取り戻したが、それでも抵抗するかのように眉間にしわを寄せる。
…長年幼馴染をやってきた私に、効果がないとわかっていても必ずやるその行為。
「すんまそん…でも、は応援する奴なんて一人しかいませんけどね…」
「わぁっ! 深司!?」
だけど最近、私の幼馴染は、新たな『苛め』をし始めた。
効果は自分でも面白いくらいに抜群。
しかも慣れる事なんてないだろうから、多分一生続く。
けれどその苛めも、本気で嫌というわけじゃない。
深司もわかっている。だから、それを原因である本人の前でやったりはしないのだ。
「おはよ〜深司!あ、ちゃんも♪」
「…ハヨ。」
「あ…おはようアキラくんッ!」
少しだけ、顔が熱くなる。
周りの人にはわからないけれど、幼馴染である深司だけはどうしてか、
すぐにばれてからかわれてしまう。
私にしか聞こえないくらいの、ぼやきで。
「会うたびに顔赤くしてたんじゃ告白で心臓持たないんじゃないの?いい加減慣れたら…?」
「む、無理だよお…」
「…ま、せいぜいあの馬鹿を応援するんだね。」
☆☆☆
「杏、今日はどこと対戦なの?」
「山吹中よ。…前にウチが棄権したトコ。」
戸惑い気味に杏が言う。
そういえば…あの時は深司に気圧されて見に行かなかったのだけれど、
あとでタクシーの事故にまきこまれたのだという話を聞かされたときは、
本当に心臓が止まるかと思った。
『アキラなら、大丈夫だよ。』
あの時、深司が言った言葉。
思えばあの時からだ、深司とこういう話をし始めたのは。
『幼馴染の俺にとってはさ、の考えてることってバレバレなんだよね。』
適当にがんばりなよ、って言われた。久しぶりにその言葉を聞いた気がして嬉しかった。
「、なんかかけてあげる言葉とか、ないの?」
「え?あっ…」
もう試合も始まってしまう。
選手に声をかけることが規則上出来ない私達は、応援以外では今しか言葉を交わせない。
「え、っと…」
不意に深司と目が合う。
深司はアイコンタクトで、アキラくんを示した。
つまり、『アキラに何か言ってやれ』ということ。
「あ、アキラくんッ!」
「え?」
不意に名を呼ばれたことに驚いたのか、アキラくんはキョトンとした顔でこちらを見る。
しまった、呼んだのはいいけど何も考えていない。
「が…頑張ってね!ちゃんと見てるから!!」
なんとありきたりな言葉。
だけど、心拍数は嫌に多く、早い。
「ありがとな♪」
アキラくんは優しい。
ありきたりな言葉にも、しっかりとお礼をくれたのだから。
深司は口の形だけで『上出来』と言った。でもどこが上出来なのだろう。
そう思っているうちに、試合の始まるコールが鳴らされた―――。
☆☆☆
それにしても…さすが私の幼馴染としかいいようがない。
「やっぱり早いね…深司の試合。」
「そうね。でも楽しみが早く来ていいんじゃないの?はさ。」
「ええっ!? 杏、なんで…」
の予想通りな言葉に、杏はくすくすと笑った。
「だっていつも神尾くん見てるじゃない?女友達の目はごまかせないわよ〜?」
「う、うん…」
「あ〜ホラホラ、始まった!」
『シングルス2 不動峰 神尾 山吹 千石―――』
☆☆☆
「なぁなぁ!青学の全国行き決まったんだろ!?」
「それだけじゃねぇよ!立海大と六角もベスト4進出だ!」
「やっぱシード校は強ぇな…。あと一個シード校あるよな?どこだっけ?」
「山吹だろ?あの千石率いる…」
「相手は?」
「初出場らしいぜ。たしか不動ナントカ…」
「おいお前ら!山吹と不動峰の試合、スゲー事になってるぞ!!」
「マジで!? 行こうぜ!!」
☆☆☆
「ねぇ杏、…ギャラリー増えたね。」
「青学との試合だってそうだったじゃない。
さすがに関東大会ともなると人数は桁違いだけどね。」
杏が笑いながら言う。さすがだな、と私は思ってしまった。
だって…前に負けた学校なのに、ビビるどころか仕返ししてやる!なんて。
すごいと思う反面…私は不安だった。
またあの時みたいにならないで…なんて、
そんなことあるはずないのに、不安に思っちゃうんだ。
「。」
「ふぇ?」
「何しけた顔してんの?今日何のために来たのかわかってるよね?」
「しん…」
「ただでさえ不動峰は応援少ないわけ。
たった一人の…だけの応援でも俺たちの力に充分なりえるんだよ?
そういうことわかってる?…わかってないよね。
とにかく神尾の応援するならちゃんと試合見てよ。
…俺がわざわざこんなこと言ってんだから、ちゃんとやらなきゃバラすからね。」
何を、なんて愚問を言う前に、深司は選手用のベンチに戻っていった。
杏がクスリと笑う。
「あらら、幼馴染から直々のエールが贈られちゃったわね。」
どうするの?と杏が聞いてくる。
どうするのって…やることはもう、決まってる。
「アキラくんの応援…だよね?」
☆☆☆
「ゲーム神尾 4−3!」
「すっげぇ不動峰!あの山吹が圧倒されてるぜ!?」
「千石率いるあの山吹が…」
「よしっ、勝てるぞアキラ!」
「神尾くん、ファイト!…ほら、も!」
「あ…アキラくん、ガンバって!」
私たちの声に、アキラくんはこくりと頷き、再びコートに向かっていった。
「なんだか今日の神尾くん…いつになく真剣ね。」
杏の言葉に私も頷く。
勿論いつもだって真面目に、そして楽しそうにテニスをするアキラくんだけど、
今日の目はそれよりももっともっと真剣な目つきになっていた。
「頑張って!アキラくん!!」
だからなのか、私の応援にも力が入る。
☆☆☆
「すげぇ接戦!タイブレークに突入だーっ!!」
相手の千石さんって人もかなり強い。
けれど…アキラくんが負ける気なんてしなかった。
「2−3 千石リード」
アキラくんのサーブ。
するり…とボールが掌から落ちそうになる。
「か、神尾くん!!」
「マズイな…アキラの奴、体力の限界をとっくに超えてる…」
「え…」
そ、そんな…
そしてその不安が、現実になって襲い掛かってくる。
アキラくんの足に、限界がやってきた。
「か、神尾くん!」
「アキラ!くそっ、ここまでなのか!?」
よろめいて倒れてゆく姿が、スローモーションのように見える。
嫌だ…こんなの…。
「アキラくーん!!頑張って―――!!!」
!
アキラくんの目が見開いた、…ような気がした。
「ちっ…きしょーっ!」
ドッ!
ワ―!
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
聞こえるのは歓声。それも…杏や、みんなの…。
「勝った!勝ったよ!の応援のおかげだね!」
「え、あ、杏…」
「まぁ最後のは良かったんじゃないの?
さっきまでの応援だったらとてもエール交換なんて呼べたもんじゃないよね…。」
「深司…」
最後のって…
今…私メチャクチャ叫びました?
「はっ…恥ずかし…」
「まぁにしてみれば無我夢中だっただろうし、
穴があったら入りたいって心境なんだろうけどね?…ホラ。」
ちょいちょい、と深司が指差す方向を見ると…アキラくんと目が合う。
アキラくんは右手でガッツポーズを作って、口の形だけで言葉を紡ぐ。
『応援サンキュー。』
って言ってたと思うんだけど…。
ああもう、ホントに恥ずかしい!
《終》
《おまけ》
「って言うかさ…神尾だって絶対の事好きだよね…」
「あれ、深司くんもそう思う?」
「つーかアキラが初めてに会ったとき俺にいろいろ聞いてきた…
ウザくてウザくてしょうがないから早くくっついてくんないかな〜って思ってるんだけど。」
「…まぁ少しずつ、ね。」
「……(もうウンザリ、という顔)。」