弥陀ヶ原〜雄山〜薬師岳〜水晶岳〜槍ヶ岳〜笠ヶ岳〜槍見温泉 1992年2月3日〜2月18日 今、振り返ってみると「何故、スキーを放棄したのだろう、何故、デポを多用 したのだろう」と後悔・反省の念が尽きないが、当時はこれで精一杯だった。 2/3 立山駅〜美女平〜ブナ坂手前 早朝、車を飛ばして千寿ヶ原へ向かう。まだ薄暗い立山駅からケーブル沿い にスキーでシール登行。途中のトンネルは天井から1m以上ものツララが無数 に垂れ下がり音も無く落下してくる。突き刺されそうで恐怖の一言に尽きる。 重荷に喘ぎながらの登行は美女平まで続いた。 美女平からのバス道はスキーを履いても、膝上のラッセルで遅々として進ま ない。挙句の果てに雨まで降り出す始末である。力尽きて14時に行動を打 ち切り道の真ん中に新品のゴアエスパースを張る。 2/4 ブナ坂〜弥陀ヶ原  明け方まで雨が降り続いていたが出発直前になって雪に変わる。上ノ小平ま では樹林帯の切り開きにスキーを滑らせていたが、森林限界を越えると地図・ コンパスそして道路際のポールが頼りだ。しかしこのポールもガスに巻かれる とすぐに見失ってしまう。幕営地を探しながら登行を続けるが所々に岳樺が顔 を出しているだけで、安心してテントを張れる場所が見つからない。ふと、ガ スが薄くなると目の前に追分峠の料金所が見える。今宵は立山荘の軒下に一夜 の宿をお願いする。 2/5 弥陀ヶ原〜室堂〜一ノ越〜雄山往復 明るくなるにつれ視界が開け雲海が広がる。天狗岳経由で一ノ越へ入るつもり だったが、好天に恵まれそうなので天狗平経由で室堂を目指す。天狗岳をトラ バースして楽勝で室堂着。一ノ越直下はクラストしていたが強引にスキーで突 破。一ノ越でデポを確認して雄山を往復するが、遥か彼方に槍ヶ岳・笠ヶ岳が 見える。本当にあんな所まで歩けるのだろうかと気が遠くなる。一ノ越に戻り 山荘の裏に雪洞を掘る。   2/6 一ノ越〜五色ヶ原〜越中沢岳 一ノ越にスキーと不要な物をデポして出発、本日は快晴・無風。 龍王岳の下りはほぼ夏道沿いに下り、鬼岳は稜線を忠実に乗り越す。ザラ峠へ 下り、五色ヶ原の登りにかかるとヘリが頭上を飛んでいく。雪原の中のゴミに しか見えない僕に気付くはずも無いだろう。  五色ヶ原は真っ白い雪原で目の前の鷲岳が美しい。越中沢岳手前コルの周辺 は雪洞も可能だが、時間もあるので越中沢岳まで登ることにする。コルからの 広い斜面には背丈くらいの松の木が疎林を形成していて、ちょっと安心感があ る。南北に細長い越中沢岳の頂に雪洞を掘る。 2/7 停滞  朝食を済ませて外に出るが、完全に吹雪いている。天気予報でも次第に悪化 するそうなので、停滞を決める。 2/8 越中沢岳〜スゴ乗越〜間山  昨日の予報では冬型になるはずだが??? スゴ乗越あたりから視界が開けてくるが昨日の降雪でラッセルがひどい。小屋 の近くに幕営するつもりであったが、時間もあるし、今晩降られたらラッセル がひどくなるので、森林限界を越える事にする。雪洞が掘れそうな所を探しな がら登るが良さそうな所が見つからない。結局、間山まで登り、フカフカの雪 を踏み固めて雪洞を掘った。  本日の無線交信で藤村さんが北ノ俣岳に入山したそうである。うまくいけば ビールに御対面出来そうである。 2/9 間山〜薬師岳〜北ノ俣岳避難小屋  外はガス・風強し。天気は好天に向かうそうなので薬師岳の乗越に掛かる。 この先はクラストした雪面にアイゼンをビシビシ効かせた登行を予想していた のであるが、期待に反して2832m峰の直下は胸までのラッセルでダブルボ ッカを強いられる。ここから噂に聞いていた巨大雪庇をガスの切れ間に見なが らアップダウンを繰り返すと祠のある薬師岳に着いた。  10時の交信を行い「今日中に北ノ俣岳避難小屋に入れそうである」と伝え 頂上を後にした。東南尾根分岐付近でガスが切れ、光が差し込んできたので地 図読みの要無く薬師峠目掛けて駆け下りる。  12時、太郎平小屋着。時折ガスに巻かれながらも北ノ俣岳に到着し、小屋 に向かって降りるが、またここを登り返すのかと思うと憂鬱である。  小屋に到着したものの、藤村さんの姿は見えない。とにかく小屋に入り、デ ポの確認をして、テントを張る。明日の天気は良さそうだが、予定より1日短 縮しているので、明日はデポの整理と休養日とする。 2/10 停滞 小屋の扉を開けると予想通りのピーカン。デポの整理をして壊れたワカンを 直していると藤村さんがやってきた。夕食はジンギスカン、山行の成功を祈 ってビールで乾杯!! デザートはデポの桃缶。 2/11 北ノ俣避難小屋〜黒部五郎岳〜黒部五郎冬季小屋  北ノ俣まで藤村さんが見送ってくれる。昨夜の降雪で稜線でもラッセルを強 いられる。デポを回収したのでザックが肩に食い込むが今日は小屋までの行程。 本日も小屋に潜り込む。 2/12 黒部五郎冬季小屋〜三俣蓮華岳  11時、三俣蓮華岳着。北ノ俣小屋からの交信時に今後の行程では幕営地か らの交信は不可能になると思えるので行動中に定時交信を行うことにしていた。 昨日は、地吹雪のため交信できなかったので今日は頂上で1時間ほど休憩して 12時に交信を試みる。さすがに頂上からだとバッチリ入感する。明日の水晶 岳アタックを伝えて雪洞堀りを始める。予報では下り坂、明日の好天は期待で きない。 2/13 水晶岳アタック  予想通り、吹雪模様。出発を見合わせていたが特に悪くもならないので雪洞 を出る。三俣蓮華小屋からは夏道が出ているので多少視界が悪くなっても対応 できる。鷲羽岳・ワリモ岳を越えて水晶小屋で休憩するが、これまでの小屋に 比べてあまりにも簡素な作りにびっくりする。水晶岳の頂上も質素な板切れ1 枚だけの看板があるだけである。  三俣蓮華岳に戻るが雪洞の入り口が見つからない。1時間程、あちこち掘り 返してやっと入り口を見つける。 2/14 三俣蓮華岳〜双六小屋  天気予報は、午後から回復すると報じていた。今日は双六小屋までなので天 気待ちしていたが痺れを切らして8時30分に出発する。稜線はいたる所に吹 き溜まりがあり、思ったよりもなかなか進まない。  双六冬季小屋は入り口が少し開いていたので中に雪が吹き込んでいた。窓が 狭いので小屋の中は薄暗いが、小屋に泊まれるだけでありがたい。 2/15 槍ヶ岳アタック  移動性高気圧はどこへ行ってしまったのだろう。 ガスで真っ白な空間へ歩みを進める。硫黄乗越あたりでガスが切れ、鋸のよう な北鎌尾根の先端に槍の穂先が天をついている。  千丈沢乗越で今回初めて人間のトレースを目にする。肩の小屋で休憩し、ノ ートを開けると、トレースの主は韓国大学生6人のもので2日前に奥穂へ向か っていた。ノートにメモ書きを残し、槍の穂先に攀じ登る。思っていたよりも 広い頂上であった。快晴無風とはいかないが、360度のパノラマが広がる。  さあ、戻ろう。行きはよいよい、帰りはこわい。トレースは残っているが気 は抜けない。樅沢岳で振り返ると、槍ヶ岳はガスの中に消えてしまった。 2/16 停滞 4時30分に起床するが、外は大荒れ。早々に停滞を決めてシュラフに潜り 込む。寒冷前線が通過し、一時的に冬型に戻ったようだが明日は移動性高気 圧が本州を被うようである。もう、春の天気模様だ。 2/17 双六小屋〜笠ヶ岳〜クリヤの頭 ど快晴。あわよくば、今日中に槍見温泉まで下山できるかなと目論んでいた が甘かった。大ノマ乗越から200mの登りに2時間もかかる、深く・重いラッ セルに苦しめられる。秩父平から稜線に抜ける急登も塹壕を掘りながら進む が、稜線に出ると、今までの苦労が報われるような、カリカリのクラスト斜 面で快適に飛ばす。遠く霞んだ富山湾を見ながら「明日の夜は、またあそこ に帰るんだなぁ」と思うとこのまま下山してしまうのが、急にもったいなく なった。  笠ヶ岳の小屋に着いたのが15時。今日はここまでにしようと思い、冬季小 屋に行くが、小屋の中は吹き込んだ雪で埋没し、とても泊まれる状態ではなか った。天気も良いので歩みを進め、笠ヶ岳を越えて暗くなる直前にクリヤの頭 に到着。新穂高の灯りがとても暖かく、懐かしく感じられた。 2/18 クリヤの頭〜槍見温泉  下山性高気圧のもと、クリヤ谷を下降。天気は下り坂らしいがここまできた ら「天気なんてどうにでもなれ、もう気に留める必要もない。」と思っていたら、 あっと言う間に天気が崩れだし雪が降り始めた。錫杖沢の出合からは通い慣れ た道で、今日までの行程を振り返りながら下山した。
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