黒部逆横断  馬場島から扇沢へ
山域 剣岳・小窓尾根〜雄山・東尾根〜赤沢岳・西尾根
期間 2002/12/26〜2003/1/7
M   上田幸雄(富山山想会)     佐藤裕介(めっこ山岳会)
「今年は何処に行こうかな」
剣岳のメインの尾根トレースは別山尾根が残っていたこと、以前から赤沢岳から針ノ木岳間の 西面が気になっていたのでこれを繋げる計画を立てて富山登攀クラブの仲間と行くことになった 。そして、うれしいことに2年前、ペルーアンデスでたまたま一緒に登った佐藤から「冬の黒部に 行きたいんだけど」と電話があった。佐藤はその年南米を転々としながら山を登り、帰国してから も精力的に登っていたので「ちょっと物足りないかもしれないけど」と前置きして計画を伝える と同行したいとの返事。しかし、直前になりもう一人が仕事の都合で行けなくなったので結局二 人で行くことになった。
行動概要
12/26 雪
青少年センター(7:20)〜馬場島(10:20)〜タカノスワリ手前(12:40)
本日より一日遅れのクリスマス寒波がやってきた。富山市内の雨も次第に雪に変わっ ていく。山想会の藤村さんに車で送ってもらうが、釈泉寺からは除雪しておらず4駆のハイ エースで突き進む。センターのゲートが開いているので突っ込むが雪のため500m程で断念。 しんしんと降り積もる雪に気持ちも落ち込んでくるがここまで来て歩き出さないわけにはいかない。 馬場島が近づくほどラッセルは深くなり先が思いやられる。ヤマタンを受け取り白萩川沿いの 林道を歩くがラッセルはさらに深くなる。テントを張って小窓尾根の取り付きまで偵 察に出かけるが、帰りにスノーシャワーを2発くらってしまった。くわばらくわばら。
12/27 雪
出発(6:50)〜池ノ谷出合(8:20)〜雷岩(9:10)〜小窓尾根1600m(13: 00)〜1750m(14:40)
昨夜からの積雪は50〜60cmくらいでテントは半分以上埋まっていた。暖かいはず だ。昨日のトレースは消えてしまい一からやり直し。空身ラッセルでトレースをつけ てテンバにザックを取りに戻ると日本山岳会青年支部の2名がやってきた。1400mま では交互にラッセルするが遅々として進まない。以後テンバまでは二人で進むことになるが空身 で腰までのラッセルがある。木陰の平地にテントを張る。夕方には雪も止み、夜には 星も瞬いていた。
12/28 晴れのち風雪
出発(7:00)〜2121m(10:00)〜2270m(11:30)〜ドーム(15:00)
出発準備をしていると後続の二人が抜いていくものの、相変わらずのラッセルなのですぐ に追いつき交代で進む。ニードルの手前で高知の3名が追いついてきたが、ロープ を出す際に先行させてもらう。ニードルのトラバースは結構ヤバイ。左から巻くこと は出来ないのだろうか? 12年前の記憶はあてにならない。もっと簡単だったと思っていたのだが・・・  ドームとのコルに降りるときも左から巻けば簡単なのに目の前の腐ったFIXロープに 騙されて右から巻いてしまった。ドームの登りでも後ろの高知Pに”右からだよ”と 指導を受ける。彼らは三度目の正直だそうだ。なるほど!  1pドームにロープを伸ばしてユマール登攀。この頃には天気は崩れ荒れ模様。ドー ムのてっぺんにテントを張るのは嫌なのでコルに降りようと思い途中まで下るが、コ ルは狭そうで風が吹き抜けているのでドームに戻り雪洞を掘りテントを押し込む。
12/29 風雪 停滞
朝飯を食べて外に出るが吹雪。停滞を決める。雪洞テントで快適停滞。
12/30 晴れのち雪
出発(6:40)〜マッチ箱(10:30)〜三ノ窓(12:40)〜池ノ谷乗越(13:30)
雪洞を出ると快晴。冬型が緩み気圧の谷・前面の擬似好天と思われる。昼から天気は 崩れてくるに違いない。とにかく三ノ窓まで天気がもてばいいのだが・・・ 日本山岳会Pが先行してコルまで。右の雪壁をトラバースして尾根に出ようとしたが 思ったよりも急でいやらしいので、コルに戻りノーマルに正面の雪壁を登る。25mで 雪のバンドに到達しバンドを右へ。クラストしてきた雪面を駆け上り、台地に出る。 右折すると岩稜帯となり2pロープを出すと雪稜となる。チムニーをフリーで登り岩 の上に出ると、目の前の岩壁は左から巻いて登ることが出来る。しかし、雪の状態が 悪く、ノーザイルではやばかった。この先ロープは要らない。広い雪稜から右上バン ドを登るとマッチ箱に出る。 北方稜線に合流するころから雲行きが怪しくなる。小窓の王の肩に出る最後の登りは空身 ラッセル。肩からバンドを下ると三ノ窓だが、時間も早いので池ノ谷乗越まで行くこと にする。ガリーに入ると天候は一気に崩れ、風雪が強くなり手の感覚がなくなってくる。 ここで伝家の宝刀”フリースミトン”に履き替える。あったかーい。乗越の長次郎側は ふかふかの雪が溜まり、雪洞が掘れないので池ノ谷側の八ツ峰の頭の下に穴を掘る。
12/31 雪
出発(6:20)〜本峰(8:50)〜前剣(10:30)〜剣御前(13:30)
予報では弱い冬型。雪洞を飛び出すとチラチラ雪が舞っている程度。明日は寒気が 入ってくるというので出来るだけ進んでおきたい。しかし、いきなり空身ラッセルで 始まる。稜線上もラッセルは深く、将棋岩の手前で一箇所ロープを出す。長次郎のコ ルへの下りでワカンに履き替えても腰までもぐるが、コルからの登り返しは思っ ていたほど雪が深くなく楽だった。本峰で五人と別れて別山尾根を下る。この頃には 西風をまともに受けるようになり、顔が痛い。鼻汁で顔はぐちゃぐちゃだ。 前剣の下りで東京志岳会Pとすれ違う。北ノ俣からやってきたそうだ。 黒百合のコルから御前までが異様に長く感じ、何度も偽ピークに騙されてやっと御前の小屋が見えた。 小屋の横で法政大が停滞していたので声を掛けると明日は晴れると言う。 まったく天気予報はあてにならない。3度目の雪洞堀りも疲れるので雪洞をやめて小屋の後ろに テントを張る。
1/1 快晴
出発(6:20)〜雄山(9:20)〜黒部平(12:40)〜赤沢岳西尾根取付(14:20)
別山の頂上で御来光を拝んで馬場島と無線交信をする。クラストした稜線を快適に飛 ばしあっという間に雄山に着いた。雄山神社で初詣を行い、今後の登山の安全と成功 を祈る。もちろん賽銭はなし。これがいけなかったか?この後、今期一番の寒波に襲 われる。 東尾根上部は岩場でアイゼンが使えるが、すぐにワカンラッセルが始まる。「地上の星」 が頭の中でぐるぐる回っている。昨夜は紅白を聞こうと思ってラジオをつけていたのだが 何時の間にか眠ってしまっていた。 東面に下りてきたので風が無くなり暑い!! 黒部平で御前谷へのルートを確認し、下降を始め1636Pで念のためハーネスを着け る。ブッシュに掴まりながら下降を続け、最後は雪の詰まったルンゼを下り御前谷出合から 500mほど上流に降り立つ。 今日は視界が良かったので難なく降りる事が出来た。ラッキー! 夕方から雪が降り始めた。
1/2 雪のち曇り時々晴れ
出発(7:00)〜1500m岩屋(9:00)
昨夕からの雪は30cmくらい。時折、強風が吹く中、西尾根に取り付く。するとあろ うことか黒部原人が住んでいたと思われる岩屋を発見してしまう。天気も悪いので、 休養日と思いテントを張ってしまうが、昼前から晴れ間が覗くようになってくるではないか。 天気予報は当てにならん。寒気が入ってくるんじゃなかったのかい。
1/3 雪
出発(6:30)〜1900m(11:00)〜2100m岩屋(12:40)
岩屋からすぐに沢を横断し右の樹林帯の尾根に取り付く。樹林を抜けると雪壁となる ので雪は深いがアイゼンに変える。藪の薄い雪壁を直上しようと思っていたが、けっ こう悪いらしいので右の樹林帯に突っ込むが、2ピッチ目で予定していた雪壁に戻る。 この上はラッセルのみでロープは要らない。思っていたほど藪もなく歩きやすい尾根 が続いている。 1900m周辺は快適なテントサイト。広い尾根を登っていくと段々と傾斜がきつくなり 2050mの岩峰に着く。この先は両面雪庇になって、所々きのこ状態だ。一ヶ所ロープ を出して通過すると、またもや岩屋を見つけてしまう。この先良さそうなテンバも無 いので時間は早いが今日はここまで。明日から6日まで寒気が入ってくるらしい。
1/4 雪 停滞
岩屋泊まりのせいで天気が悪いと出る気がしない。今夜のテンバにも不安があるし・・・ V峰の西峰・東峰のコルに雪洞が掘れるかもしれないが、吹きっさらしの稜線でテントを 張るのは勘弁してもらいたいので安易に停滞を決める。10時頃から風がうなりをあげて 吹き出したものの岩屋は風下の為ほとんど無風状態。ただ雪がだんだんと吹き溜まっていく。
1/5 雪 停滞
明け方から段々風が弱まっていくようだが、雪はしんしんと降り積もっていく。ラジオ は富山で40cmの積雪を記録したと報じている。九州各地でも積雪を記録しているらし い。山は思ったよりも静かでこんな天気で停滞してていいのだろうかと思うが、明日 から冬型が緩むことを期待して停滞とする。朝食のそうめんをすすって、今山行唯一の 除雪を行う。
1/6 雪のち晴れ
出発(7:10)〜V峰・西峰基部(10:10)〜V峰・東峰(13:30)〜U峰・西峰の 肩(15:30)
昨夜はすごい風が吹いていたが、明け方から弱くなる。テントを飛び出すがとても寒 い。寒気はまだ抜けきっていないが、昼から晴れてくるだろう。V峰基部までは樹林帯だが雪庇 に注意。とにかくラッセルがひどく、藪も出てくるので思っているペースで進まない。 佐藤は手足の感覚が無くなってきたというが、天気も良くなってきたし今日 は出来るだけ前進しておきたい。 V峰基部から沢のトラバースをはじめるが亀裂が走る。急いで戻りロープをつけてトラバース開始。 3ピッチ目でいきなり足元から雪崩れる。ダケカンバの疎林でも関係無く雪崩れる。 さらに1ピッチ尾根を登りロープを外す。足元の雪はサラサラで踏み固まらないのでエンドレスの塹壕堀。 東峰の直下でやっとハイマツが現れアイゼンに履き替える。スバリ岳西稜がかっこええ。 東峰からはクライムダウンと懸垂(25mx2回)でコルへ。コル先のこぶは藪がひどくラッセルも深い。 トラバースが入るのでロープをつける。さらにU峰の登りもそのまま1ピッチだけロープを伸ばし 快適な雪稜をたどると肩のテラスに到着。晴れているので眺めも良く最高だが明日の天気が気に掛かる。 とりあえず今夜は天気がもちそうだ。 テントに入っても佐藤の手足の感覚が戻らないというのでお湯を作り解凍する。 明日はとにかく安全圏まで降りたい。燃料はまだかなり残っているものの食料の絶対量が少ないので腹が減ってフラフラだ。
1/7 風雪
出発(6:40)〜赤沢岳(10:30)〜屏風尾根の頭(11:30)〜扇沢(14:30)〜日 向山ゲート(16:00)
夜中、寒くて寝ていられないので3時に起きだし火を起こす。生姜湯を飲んだりして 身体を温め時間をつぶし朝を迎える。晴れ間は見えるが風が強く寒い。テンバから ロープをつけて登り始める。2ピッチでU峰・西峰直下の岩場、残置ピンがないので一本 イボイノシシを叩き込む。U峰の双児峰間の雪稜が美しい。窓で一旦ロープを外し、 バットレス状の頂上直下は草付、岩稜、雪壁とラッセルのない所を選びながら登っていくが 途中2ピッチロープを出す。 クラストした雪面を辿ると、やっと赤沢岳頂上着。とにかく風が強く寒いので屏風の頭を目指 す。吹きっさらしの稜線で、とりあえず視界は確保されているのでコルで屏風尾根を確認し 風下に下りるとやっと一息つける。頭にはテンバの跡もあり、雪洞もほれる。赤沢岳から針ノ木方面 にトレースが伸びていたものの、屏風尾根にはトレースなし。しかたなく雪崩れそう な斜面をおっかなびっくり下りあっと言う間に大沢小屋に到着。平坦になると標高が下がった分、 雪が重く、なんだかんだで扇沢に着。携帯でタクシーを呼びつけ、走り去っていく業務用車両を 横目に見ながらゲートまで歩く。やっと終わった。 大町で腹一杯飯を食い、佐藤は実家のある甲府へ、自分は富山へとそれぞれの帰途についた。
山行を終えて
小窓尾根、別山尾根、赤沢岳西尾根どれをとっても難しい尾根ではないし、エスケープも容易に出来る。 十字峡周辺での黒部横断と比較すると、どうしても見劣りするが、 冬山は単純にグレードでは表せない難しさがあるからこそ面白い。 冬の黒部で山行を成功させるには、神様が味方してくれることが大事。 たいした実力も無いのに今まで登ってこれたのは、休みが取れる環境とラッセルするのが好きなだけ。 ただそれだけだ。
「今度は何処に行こうかな」

チンネ・ジャンダルムと池ノ谷ガリー

雄山から剣岳

黒部湖とスバリ岳・針ノ木岳

スバリ岳西稜

赤沢岳西尾根 U峰

立山東面
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